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10/26- 大槻香奈個展「物語になりきれないものたちへ」

物語になりきれないものたちへ
SNSを中心としたネットの世界にいると、どんどん人間にしか興味がなくなっていくような気がする。それはとても怖い。どこかで孤独の時間を生きる事を忘れてしまったら、私はもうモノを作る事も、何かを感じる事も、どんどん出来なくなっていくような気がしている。最近はそんな事を考えて生きていた。

ふと、人間社会からしばし解放されて生きてみると、心の友にたくさん出会う事ができた。それは山だったり、家に生けられた花だったり、古い家族の誰かが残した、写っているのが誰かもわからない写真や小物だったり、そういうものが私の心にもうひとつの居場所を与えた。誰かについて考える時、その人間(もしくはその周りの人間関係)だけと向き合っていてはみえてこない様々な情報というのがある。その人がどんな家に住み、どんな土地の風景の中にいるのか、その人が普段全く気にかけていない何か(私はそれをよく家の中の謎の民芸品とかに見出している)の中にも、無意識的にその人を形作ってきたものがあるのかもしれないと考える。

けれども、私はそうやって誰かのことを分析して、他人のことを深く知りたい訳ではない。ただ、本来人は、どこかで物語化するのが難しい現実をもっている。この地に生まれたとき、突然得体の知れない空気の中に放り出されて、その空気が何なのかよくわからないまま生きてきた側面があるはずだということを、どこかで思い出せるようにしておきたいのである。SNSをやっていると、その人のキャラクターがそれぞれにあって、それぞれの明確な物語をもって社会に生きているようにみえるけれど、もちろんそれが全てではなく、物語になりきれない何かをみんな持っているはずなのだ。SNSが日常化すると、それをすっかり忘れてしまいそうになる。

私は自分の作家活動のなかで、制作コンセプトが震災によって大きく変化したり、何かしらの社会現象にその都度揺り動かされてきたところがあるけれども、根底では「大きな物語から外れた何かの為に、自分の絵があってもいい」と思ってきたところがある。今回は特に、人間以外のものに目を向けて作品をつくった。SNSを通して人の意志や主張が飛び交う中、そこからはすっかり距離をとったところで動き続けている現実があるという事を、いつもどこかで思い出したいし、思い出せるような作品を作れたらと、そう思っている。そして、物語化できない、よくわからないものを、よくわからないまま確かめるということを、作品の中でやっていたい。それは私にとって、これからの人生を生きる上での救いになるはずだ。

今回はそんな、自分にとっての人生(生きること)の重要部分からすこしだけ外れた、しかしずっと寄り添ってきた大事なものたちに目を向けて作品化した。

日時 10/26(金)-11/5(月)13:00-21:00(火水木休)
※初日の夜、作家在廊予定
料金 要1ドリンク(500円)注文


大槻香奈プロフィール
1984年生まれ。京都府出身の美術作家。主にアクリル絵具を使用した平面作品を中心に、自身の興味の対象である「から」(空、殻)、空虚さを感じるモチーフを通して、現代日本の形を捉えようとしている。また書籍の装幀やCDジャケットを描き下ろすなど、イラストレーターとしても活動している。
大槻香奈公式サイトはこちら